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「伊達に何十年も主婦をしてない」つい調子に乗ったスーパーでのバイト、ポンコツぶりが身に沁みた

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

「伊達に何十年も主婦をしてない」つい調子に乗ったスーパーでのバイト、ポンコツぶりが身に沁みたの画像1
(写真ACより)

目次

地元スーパーの厨房で5時間のバイト
「伊達に何十年も主婦をしてない」つい調子に乗った
「こんな仕事を毎日何時間も」パートに尊敬の念を抱く
ただの使えないオバさん。ポンコツぶりが身に沁みた
これが60代半ばの現実

地元スーパーの厨房で5時間のバイト

 前期高齢者となったばかりの森香苗さん(仮名・65)。今話題のスキマバイトを利用して利用して雀の涙程度の年金の足しにしたいと考えた。

 まずは有償ボランティアで経験を積み、いよいよスキマバイトのアプリに登録。勇んで応募した某ファストフード店からは、森さんの年齢を危惧するようなメッセージが来た。すっかりビビッてしまい、自信をなくした森さんは、キャンセルしてしまう。

(前回:65歳スキマバイトに応募、この返信は「単なる確認?」

 というわけで、森さんにとって「応募」のハードルは上がった。無念のキャンセルからさらに数カ月。次に、恐る恐る応募したのは地元スーパーの厨房だった。

 総菜のパック詰めや洗い場を担当するという。厨房なら階段も接客もない。猛暑の時期だったが、室内なのでエアコンも効いているだろう。しかも自宅から自転車で行けるので、交通費もかからない。

 ひとつだけ不安だったのが、勤務時間が5時間と長かったこと。休憩もない。定年までパートで勤めていた仕事は事務職だったので、8時間勤務しても体力的に不安はなかったが、立ち仕事で5時間となると話は別だ。

「伊達に何十年も主婦をしてない」つい調子に乗った

 それでも1日だけだし、がんばれば何とかなるだろうと自分を鼓舞して出勤した森さん。帽子にマスクにエプロンをつけて、いざ厨房へ。

 仕事を教えてくれるのは、正社員らしい若い男性。ほかにはパートらしき40代から50代くらいの女性が2人。すでに黙々と作業をしている。森さんが指示されたのは、下処理された肉や野菜に多少の加工をして焼くというもの。

「工程がいくつかあって、一つの作業が終わるごとに『次お願いします』と声をかけて、男性社員の指示を仰がねばなりません」

 作業も2巡目くらいになると多少慣れてきて、男性社員の指示を待たず次々と焼いていった。

「伊達に何十年も主婦してきてないからね、とちょっと調子に乗っていました」

 すると、出来上がりをチェックしていた男性に「これ、トッピングがありませんよ」「こちらはソースをかけ忘れています」と指摘されてしまった。

「ヒー! っと冷や汗をかきました。慣れてきて、いちいち指示を仰がなかった私が悪い……言い訳の仕様もありません」

「こんな仕事を毎日何時間も」パートに尊敬の念を抱く

 それでなくてもピリピリした雰囲気の男性社員がますます怖くなった。時計をそっと見ると、ようやく2時間たったところだ。「まだあと3時間もある……絶望しました」。

 室内は調理をするため、エアコンはキンキンに効いているとはいえ、水分は摂っておかないと危ない。エプロンのポケットに入れた水をこまめに飲んではいたが、業務用オーブンの前に立っていると頭痛がしてきた。

「周りのスタッフは誰も水など飲んでいる様子はありません。トイレにも行かない。何なんだ、この人たち? こんな仕事を毎日何時間もやっているんだ、と尊敬の念さえ湧いてきました」

 男性社員は若いが、あとの2人は森さんよりは少なくとも10歳は年下だろう。年齢の違いをひしひしと感じた。3時間を過ぎたころには、腰の痛みがひどくなってきた。

「立ちっぱなしの上に、単調な作業で同じ姿勢を続けていたのが腰痛の原因だと思います。ものを取るときに、こっそりしゃがんで腰を伸ばしてみたり、足を踏ん張って立ってみたりするのが精いっぱい。トイレで座るとちょっと楽なんでしょうが、トイレに行かせてくださいとも言い出しにくくて。水分があまり摂れてないせいか、尿意もないのですが」

ただの使えないオバさん。ポンコツぶりが身に沁みた

 後半2時間は修行だと思ってひたすら耐えた。あと1時間半、あと1時間……業務終了を告げられた時には疲労困憊。腰は限界に達していた。這うようにして退室した。

 退勤手続きをしている時、もう一人の女性も同じスキマバイトだったことがわかったが、さらに森さんは凹んでしまった。

「50代くらいの彼女は全然疲れていないように見えて、これからスーパーで買い物して帰ると言っていました。私、これまでどんな仕事も要領よくこなせる自負があったのですが、スーパーではただの使えないオバさんだったようで、すごい敗北感でした」

これが60代半ばの現実

「こんな重労働を毎日やる人を尊敬します。失敗までしてしまったし、また5時間の募集があっても、とても応募する自信はありません」

 はじめてのスキマバイトのスタッフに、口頭で指示するだけでお客さんに出せるものを作らせるのが、そもそも無理があるんじゃないかと思うが……。

 せめて手順を図示するとかされていれば、少なくとも大きなミスは発生しなかったのではないかと思う。森さん一人がそれほど責任を感じる必要はない気もするが、森さんの心身のダメージはかなり大きかったようだ。

 それから2日間、森さんは腰痛がひどくなり、腰を「く」の字に曲げて生活した。

「1日、といってもたかが5時間、立ち仕事をしただけであと1週間は使い物にならないポンコツなんだと、はじめて年齢を実感しました。その後もスキマバイトのサイトはチェックをしてはいたものの、どの仕事もできる自信がなくて応募することができませんでした」

――続きは10月19日公開です。

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  • 坂口鈴香(ライター)
  • 坂口鈴香(ライター)

    終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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