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「だまされて施設に連れて行かれる」おびえて繰り返す認知症の父、かわいそうとは思うが……

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)。そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

「だまされて施設に連れて行かれる」おびえて繰り返す認知症の父、かわいそうとは思うが……の画像1
(写真:写真ACより)

目次

交通事故で認知症が進行した父
事故に遭ったことをすっかり忘れてしまった
たまたま見かけた加害者。人相が激変していた
「一人で歩けなくなったら、家にはいられないからね!」

交通事故で認知症が進行した父

 高齢者が起こす交通事故は報道されることが多く、どうしたら運転をやめてもらえるのか頭を悩ませている子世代は少なくない。

 他方で、交通事故の被害に遭う高齢者もまた多い。歩行中や自転車乗用中に事故に遭い、それ以来心身が衰えてしまったと嘆く声もよく聞く。前編で紹介した広松さんは、そんな父親の姿を見るにつけ「事故さえなければ」とため息をつく。

(前編はこちら▶横断歩道で車に巻き込まれた父、その後の姿

 西山恵美子さん(仮名・55)の父親(83)も交通事故に遭って以来、生活が一変していた。自転車に乗っていた父親は、横から出てきた前方不注意の車に跳ね飛ばされた。頭蓋骨、鎖骨や腕を骨折し、頭は25針縫う大けがを負った。

 命の危険を乗り越え、数日後には一般病室に移ることができたものの、せん妄が激しくなった。チューブや針を抜いたり、「帰る」と言って病院からいなくなったりと大騒ぎになった。

 その後せん妄はおさまったもの、今いる場所がわからなくなるなど認知症のような症状が出てきた。心配した家族は、退院を早めてもらうよう医師に頼み、頭の傷も完全にふさがらないまま自宅に戻った。

 ところが、自宅に戻ってからも認知症の進行は止まらない。頭にも大きな傷が残っている。

事故に遭ったことをすっかり忘れてしまった

 「あの事故さえなければ」と恨みに思うのは、前編で紹介した広松さんと同じだ。ただ皮肉なことに、父親は事故に遭ったことをすっかり忘れてしまっていると苦笑する。

 ただ、「事故のことなどすっかり忘れて、日常生活を送っているであろう加害者のことを考えるとやりきれない」と言う広松さんとは違う点がある。加害者のその後を知っているのだ。

「たまたま加害者はうちからそう遠くないところに住んでいて、加害者宅の前を通ることもあるんです。気になるので、つい家の様子を見てしまいます」

 事故から数年たつが、これまで加害者の姿を目にすることはなかったが、つい先日その男の車を見かけた。車のナンバーを覚えていたので、わかったという。

 その車を見て、西山さんは驚いた。

たまたま見かけた加害者。人相が激変していた

「事故からもう何年もたつのに、あのときの事故で凹んだ箇所がそのままになっていたんです。縁起が悪いし、普通すぐに修理しますよね」といぶかる。運転している加害者の顔も見た。

「人相がすっかり変わってしまっていました。ヒゲぼうぼうで、すさんだ感じです。別人かと思ってよく見ましたが、あの男に間違いありません」

 腑に落ちる思いもあった。というのも、加害者の家の様子も変化していると感じていたからだ。

「事故のときは、家族で住んでいたはずなのですが、今は家族の気配がないんです。洗濯物が干してあることもないし、庭の草も伸び放題。人相と同じで、すさんでいたので、『ああやはり』と思いました」

 加害者もあの事故で人生が狂ってしまったのかもしれない――苦い感情がこみあげてきた。加害者に同情するとか、許すとかではない。広松さんと同じ「やるせなさ」が一番近いと思う。

「一人で歩けなくなったら、家にはいられないからね!」脅してみたものの

 今は、事故のことなど忘れてしまった父。

 まだ事故を覚えていたころは、事故の恐怖がよみがえることもないのか、平気な顔をして自転車に乗っていたというが、数カ月前に自転車で転倒してしまった。

「自分で起き上がれなくなって、とうとう自転車に乗るのもやめてしまいました。すると、足腰も気力も一気に衰えたんです。外出しようという気持ちもなくなったのだと思います」

 これはまずい、と西山さんは「せめて家の周りだけでも歩いてほしい」と父親に伝えた。

「『一人で歩けなくなったら、家にはいられないからね!』と強めに言ったら、何とか歩くようにはなったのですが」

 “脅し”が効きすぎたのか、以来父親は西山さんが車に乗せて気晴らしにドライブでもしようとすると、おびえたように「どこに行くんだ?」と繰り返すようになった。

「だまされて施設に連れて行かれるんじゃないかと不安なのでしょう。かわいそうなことをしたなとは思いますが、そうでもしないとますます足腰が弱ってしまう。心を鬼にして叱咤激励しています」

 今はまだ母が元気で、父の世話もがんばってやってくれているので何とかなっている。だが、父親がいつまで自宅で暮らせるか、もう時間の問題だろうなとも思うのだ。

 そして、“あの男”も。

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  • 坂口鈴香(ライター)
  • 坂口鈴香(ライター)

    終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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