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コラム
- スーパーの裏側
- 2025/09/12 15:00
「税込価格」なぜスーパーは大きく表示しない?【トライアル】では客離れも……元店長が明かす“事情”
食品スーパーに関する疑問や消費者が知らない裏側を、創業105年にあたる2017年に倒産した老舗スーパー「やまと」の元3代目社長で『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)の著者・小林久氏に解説してもらいます。今回のテーマは「税抜表示を優先するスーパーの理由」。
ドラッグコスモスは税込価格を強烈アピール(写真:スーパーマーケットファン) 目次
・スーパーは「税込価格」を大きく表示する義務がある
・ディスカウントストア【トライアル】価格表示めぐり客離れか
・全スーパーが「税込価格」にするべきでは?
・「安さ」を演出しなければならない宿命
・税込表示を貫く「コスモスドラッグ」に注目スーパーは「税込価格」を大きく表示する義務がある
私たちがスーパーで見るプライスカードには、「税込」「税抜」「本体価格」「100g当たり」などの文字が並び、書かれた値段の大きさも違います。「結局いくらなの?」と戸惑ったことはありませんか?
実は、2021年4月から、消費税込の「総額表示」が義務付けられ、本来値段は「税込」で表示する決まりになっています。しかし、消費者に誤解がないように、「税抜(本体)価格」との“併記”を認めたり、「税込価格」を大きく表示するなどのガイドラインがあります。
あなたがよく行くスーパーやドラッグストアの価格表示はどちらでしょう? イメージ的にはまだ「税抜価格」を大きく表示している店が多い気がします。この点では国の方針に反して、「安さ」をアピールしたい店側の事情が優先されています。
ここで整理してみましょう。
税込表示
お客さん→ひと目で支払額がわかる。安心感が大きい。
スーパー→総額が同じでも、競合店が「税抜」の場合、高いイメージを与える。
税抜表示
お客さん→購入時に消費税額とのギャップを覚え「なんだか高い」と感じる。
スーパー→安さをイメージづけられ、他店とも比較しやすい。つまり、「税抜表示」はスーパーに都合がよく、「税込表示」はお客さんに優しいということです。私はスーパーの経営者時代、店の都合を優先して、チラシ広告に「税抜価格」を“大きく”、そして「税込価格」を“小さく”入れていました。
今さらながらゴメンナサイ。
ディスカウントストア【トライアル】価格表示めぐり客離れか
消費者にとってベストなのは、「税込価格で安い店」です。その代表格が、昨年「西友」を約3,800億円で買収した、ディスカウントストアの雄「トライアル」です。
しかしトライアルは、今年6月から、それまで「税込価格」のみの表示だったところを「税抜価格」を併記するようになり、さらに「税抜」を大きく打ち出す方式に切り替えました。価格は税込表示だけだったトライアルの商品。2025年4月時点(写真:スーパーマーケットファン) 現在は税込価格が最小サイズで表記されている(写真:スーパーマーケットファン) しかも単なる表示変更にとどまりません。
もちろんすべての商品ではありませんが、例えばこれまで「税込198円」で売っていた食品を、普通なら「183円(税抜)/198円(税込)」にするべきところを、なんと「198円(税抜)/213円(税込)」に変更。
つまり、税込価格をそのまま「本体価格」にスライドさせ、そこにさらに消費税を上乗せしたのです(この場合、実質15円の値上げ)。
SNS上では、税抜価格を大きく表示し、税込価格を小さく出す手法に対し、「トライアルは税込価格がわかりやすいのが良さだったのに、がっかりした」「なぜ良いやり方を改悪するんだろう?」といった落胆の声が多く聞かれました。また「表示変更で便乗値上げ! 以前、税込99円だった商品が税込で105円になった」「税込でも安いのがトライアルの強みだったのに残念」というコメントも見られます。
トライアルは「他店と価格を比較しやすくした」とアピールしていますが、その思いは顧客に伝わっていないようです。実際、7月の既存店客数は前年比2.5%減と、トライアルファンを失望させた客離れの数字が出ています。そもそも全スーパーが「税込価格」にするべきでは?
ではなぜ、そもそもスーパーは義務付けられている税込表示ではなく税抜表示に固辞するのでしょうか? スーパーが足並みをそろえて税込表示を徹底すれば、「他店と価格を比較しやすくなる」はずです。
2022年、スーパー各社はそれまでの「税込価格」を“シレっと”「税抜価格」へスライドさせた経緯があります(例:98円<税込>を91円<税抜>など)。
この年は、円安・ウクライナ情勢・気候変動、物流費や人件費の高騰による食品価格の上昇が始まった「値上げ元年」といわれています。
税込表示よりも税抜表示のほうが値上げ幅のインパクトが抑えられるため、表示を変更するスーパーが登場。そうなると、価格競争で負けないために他店も税抜でそろえるようになったのです。トライアルは、その表示変更を今行ったともいえます。トライアルでさえ、税込価格に値上げ分を吸収できなくなったということでしょう。
スーパーの経営者なら、このことを“全否定”できないはずです。しかし、消費者から「税込表示の良心が失われた」と思われても仕方のないことでもあります。
「安さ」を演出しなければならない【トライアル】の宿命
トライアル(写真:スーパーマーケットファン) トライアルは決算説明会で、この価格表示変更を「粗利改善戦略」と明言しました。つまり、「値上げした」と正面からは言わず、「表示変更に織り込んだ」ということを正式に認めています。
トライアルは、基本的に現金払いが中心です。それでも人気の理由は、価格の安さと品ぞろえの豊富さ、他店ではあまり売られていない大容量サイズの定番商品や、コスパの高い商品が多いことです。安くてコスパが高いイメージを維持するためには、税抜表示にしてでも「安さ」を演出しなければならない宿命を背負っていたともいえます。
これは、全国展開を続けるトライアルにとって、“背に腹は代えられない”「戦略」だったのでしょう。
税込表示を貫く「ドラッグストアコスモス」に注目
コスモスの外観(写真:スーパーマーケットファン) 注目すべきは、同じ九州を拠点とするライバルの「ドラッグストアコスモス」が税込表示を貫いていることです。
トライアルのように切り替えを行う企業が出てきた背景には、コスト上昇に直面する小売業の厳しい現実があります。今後「コスモス」が表示を変更するのかどうか、とても興味があります。
結局、税抜でも税込でも、お店を決めるのはお客さんの判断です。「こっちの店のほうがお得だ」と思われた店が勝ちです。
スーパーの“知恵比べ”は、これからも続いていくでしょうが、下手な知恵を絞ることで、お客さんの信頼を失い、客離れを招くことは覚悟したほうがよさそうです。
消費者にできるのは、値札をよく見て、ちゃんと比べて、そしてお気に入りの店を選ぶこと。表示方法に惑わされず、本当に信頼できる店と付き合っていきましょう。
税込と税抜、どちらの価格表示を優先してほしいですか?
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