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「ようやく母の気持ちがわかりました」無理にデイサービスに行かせたことを、申し訳なく思った

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

「ようやく母の気持ちがわかりました」無理にデイサービスに行かせたことを悔やんだの画像1
(写真ACより)

目次

特別養護老人ホームと雰囲気が全然違う
食事のおいしさを求めるのは「ぜいたく」なことに
ようやく母の気持ちがわかった

時給400円なのに、トイレ掃除?

特別養護老人ホームと雰囲気が全然違う

 森香苗さん(仮名・66)は、今話題のスキマバイトを利用して雀の涙程度の年金の足しにしたいと考えたが、いきなりのスキマバイトはハードルが高い。そこでまずは介護施設の有償ボランティアを試してみることにした。

 初めて応募したのは、特別養護老人ホーム。殺伐とした雰囲気と、想像以上の重労働で疲労困憊し、もう特養に応募するのはやめようと思った。

(前回はこちら:老人ホームで依頼された「お手伝い」とは?「特養の実態が少しわかった」

 次に応募したのは、デイサービスの食事づくりだ。

「食事をつくるといっても、キットのようなものだから温めるだけ。利用者数も10人程度だというので、これなら体力もそう使わないし気楽にできるかなと思いました」


 森さんが予想したとおり、前回の特養に比べると雲泥の差だった。利用者が少ない割に、職員数は結構多く、皆にこやかで余裕を感じた。


「重度の方が多い特養と比べて、デイサービスは利用者の介護度も軽めなので、職員の負担が少ないのかなと思いました。とにかく雰囲気が全然違うんです」

食事のおいしさを求めるのは「ぜいたく」なことに

  食事づくりは当初聞いていた通り、キットを温めるだけだった。

「それに味噌汁をつくること。あと、ほかにも余っている野菜があるので、適当に何か副菜をつくってくださいと言われました。といっても、調味料も少ないのでお浸しくらいしかできませんでした。それに調理済みの主菜はいいのですが、冷凍アスパラを茹でて冷蔵庫にあるドレッシングをかけただけのサラダは、何ともまずそうで……。良心的なデイサービスで、『利用者さんと一緒に食事してください』と言ってくださったのでありがたくいただいたのですが、案の定アスパラはおいしくなかった。家でも冷凍アスパラやほうれん草は解凍して使ってもおいしくないので、まず買わないし、単体で使うこともありません」

 森さんの腕の問題ではなく、冷凍野菜をおいしいサラダにすること自体が無理だったのではないだろうか。残している利用者も少なくなかった。

「1回食べただけでは判断できないとは思いますし、キットを卸している業者の質や、予算にもよるのでしょう。それでも私が利用者だとしたら、お金を払ってデイサービスに来て、この食事だと悲しいなと思いました」

 最近のデイサービスなどはこのようなキットを使う施設が増えているという。人手不足のなか、イチから料理するのが難しいという事情もあるのだろう。

 自分で食事をつくるのが億劫になっていたり、認知症で料理ができなくなっていたり、そもそも食事づくりなどしたことがない男性などからすると、温かい食事が出るだけでもいいのかもしれないが、今後施設で食事のおいしさを求めるのは「ぜいたく」なことになっていくのかもしれない。

 このデイサービスは雰囲気が良かっただけでも良しとするしかないのだろう。

ようやく母の気持ちがわかった


 ただ気になったのは、小さな施設で昼時ということもあってか、森さんがいた3時間、利用者はずっとイスに座りっぱなしだった。

「食事前にちょっとした嚥下体操をして、あとは時々トイレに立つくらいです。ベッドで横になっている人もいましたが、食事をする以外はテレビを見るしかすることがないというのもつらいな、と思いました。座っているだけというのも、疲れることでしょう」

 森さんの亡くなった母親は、デイサービスに行くのを嫌がっていた。帰宅すると「疲れた」と言って横になっていたのを思い出した。

「そりゃ疲れるよなと、ようやく母の気持ちがわかりました。私のために無理やりデイサービスに行かせたことを、今更ながら申し訳なく思いました」

 それでも、有償ボランティアとしては特養よりもずっと楽だったことから、森さんは3回目もデイサービスを選んだ。食事の配膳や片付け、レクリエーションの手伝いをしてほしいという内容だった。

「ここは前回よりは大規模なデイサービスで、20人以上利用者さんがいました。大量の食器が下げられてくるので、洗って、拭いて、しまうのは、それなりに時間がかかりました。冬ではなかったので素手でも耐えられましたが、食洗機がないのは非効率だなと思いました。予算の関係なのかもしれませんが、人手不足ならなおさら少しでも機械化しないと対応できないのではないかと思います」

時給400円なのに、トイレ掃除?


 予想外だったのは、この日急きょ健康診断が入ったため、レクリエーションがなくなったことだった。

 管理者からは突然の予定変更を謝られたが、利用者はゲームをしたり、テレビを見たりしていて、森さんがお手伝いをする必要もなさそうだ。利用者と世間話をするだけで手持ち無沙汰そうにしている森さんを見とがめたのか、職員の中でもちょっと厳しそうな女性が「こっちに来てください」と言う。

「そろそろ帰る人もいるので、トイレ周りの掃除をしてほしいと言われました。え? トイレ掃除をさせるの? と戸惑いました。特養ではトイレといっても手すりや洗面所の消毒だったので、まさかトイレそのものの掃除をさせられるとは思いませんでした。そのあとは、ゴミをまとめる作業です。はじめからそう書いてあれば、そのつもりで来たんですが、なんだかなと……」

 新しい施設だったので、トイレも汚くはないし臭いもなかった。ただ、「あくまでもボランティアなのに、便利に使われたな」という思いは消えなかったという。

「変なプライドかもしれません。お客さんとして扱ってほしいというわけではないですが、『時給400円なのに、トイレ掃除させるの?』という感じですね」

と、「時給400円でトイレ掃除」で、森さんは有償ボランティアのあり方に疑問を抱いた。――というより、「安い労働力扱い」が嫌になった。

 そして、「経験も積んだし、こうなったら本格的にスキマバイトを探そう」と決意した。「本格的なスキマバイト」というのも矛盾しているのだが。

――続きは10月5日公開です。

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  • 坂口鈴香(ライター)
  • 坂口鈴香(ライター)

    終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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