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なぜスーパーの店先にある屋台は「焼き鳥屋」ばかり? 元店長が明かす、“切っても切れない”事情とは

食品スーパーに関する疑問や消費者が知らない裏側を、創業105年にあたる2017年に倒産した老舗スーパー「やまと」の元3代目社長で『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)の著者・小林久氏に解説してもらいます。今回のテーマは「なぜスーパーの店先にある屋台は『焼き鳥屋』ばかりなのか?」。

なぜスーパーの店先にある屋台は「焼き鳥屋」ばかり? 元店長が明かす、“切っても切れない”事情の画像1
(写真ACより)

目次

スーパーと「焼き鳥屋」の“切っても切れない”事情
スーパー側のメリット①店内での“買い上げ単価”が上げる
スーパー側のメリット②賃料収入
焼き鳥屋側のメリット①客数が多い好条件の場所
「焼きそば」や「フライドポテト」では成り立たない
香ばしい煙の向こうに見えるもの

スーパーと「焼き鳥屋」の“切っても切れない”事情

 夕暮れ時のスーパーマーケット、店先や駐車場の一角で「焼き鳥」を売る屋台やキッチンカーを見かけることがあります。

 あの香ばしい匂いの“誘惑”に勝てる人は多くありません。あなたも素通りできず、自分や家族のために購入した経験はありませんか? 
  
 たまに「焼き芋」や「たい焼き」を売ることもありますが、やはり主役は「焼き鳥」です。では、なぜ焼き鳥ばかり売るのでしょうか? 

 今回はこのスーパーと「焼き鳥屋」の“切っても切れない”事情について解説します。 

スーパー側のメリット①店内での“買い上げ単価”が上げる

 まず「焼き鳥」の最大の強みは、なんといってもその“匂い”です。 

 焼き鳥の匂いには、人間の空腹感を強く刺激する力があります。特に夕方、空腹と疲れがピークに達する時間帯に漂う「炭火とタレの香ばしさ」は、強力に購買意欲をそそります。

 たとえあなたが「焼き鳥」を買わなくても、スーパー店内での“買い上げ単価”を上げる効果があります。 

メリット②賃料収入

   次に「賃料収入」が確実に入ることです。 

 スーパーの駐車場が満車になるのは、比較的都市部にある一部の店舗に限られ、ほとんどの店舗ではスペースに余裕があります。各種イベント(フリマなど)や不定期な催し物より、定期的な収入が見込める“常設”の催事業者は、厳しい経営の中にあって、ありがたい存在といえます。 
  
 ここで「店内の焼き鳥の売り上げに影響はないの?」という疑問を持つかもしれません。答えはもちろん「影響あり」です。

 しかし対抗するように店内で煙や匂いを出すわけにもいきません。それなら多少、惣菜部の焼き鳥が売れなくなっても、100%純利益になる「賃料収入」を得るほうが店舗全体のメリットが大きいので、「良し」としているのが正解です。

 そして惣菜コーナーでは高級焼き鳥や「10本598円」などの安価な冷凍焼き鳥を販売して、少しでも競合を避けるように配慮します。 

焼き鳥屋側のメリット①客数が多い好条件の場所

 スーパーとの契約形態は「歩合制(売り上げの◯%)」または「定額制(1カ月◯万円)」の2パターンありますが、申告売り上げの“信ぴょう性”の問題から、実際は定額制(5〜10万円)にするのが一般的です。(電気・水道代などは別途) 
  
 スーパーの店頭で営業する「焼き鳥屋」は、お祭りなどの“露店商”とは違って常設営業のため、保健所の営業許可や火気の使用申請、食品衛生責任者の設置などが必要です。

 中にはずさんな業者もいるため、スーパー側も契約には慎重になります。地主さんからの紹介など“断りづらい”業者の際も同様に、慎重に見極めます。 
  
 客数が多い人気のスーパーで「焼き鳥屋」を営むことは、まさに“宝くじ”に当たったようなものです。そんな好条件の場所はまさに「利権」ともいえ、簡単に第三者には譲りません。

 そのため、店主の引退や移転の際には“営業権”が同業者間で有償で譲渡されることさえあります。 

「焼きそば」や「フライドポテト」では成り立たない

 焼き鳥屋で注目すべきは、なんといっても“高い利益率”です。

 値段も手軽に1本100〜200円ほどで買え、味付けも「タレと塩」の2種類、種類は「ねぎま・モモ・鶏皮・砂肝」など4〜5種類に抑えれば、シンプルで在庫管理も簡単。

 さらに、1本の原価は30〜40円程度。コンロの炭やガス代、賃料を差し引いても、売り上げの「50%以上」の利益が残ります。 
  
 たとえば、1日30人のお客さんが焼き鳥を10本ずつ買えば、売り上げは3万円(1本100円換算)で月商90万円になります。これで最低でも粗利益ベースで1カ月約40~50万円を稼げるビジネスモデルです。 
 
 そのうえ、少人数で切り盛りすれば人件費も抑えられ、夫婦や兄弟で営業するには十分な収入が得られます。私は直接「焼き鳥屋」のご主人からこのような“裏事情”を教わり、「売れたら笑いが止まらない」と聞いたことがあります。 
 
 これが「焼き鳥」ではなく「焼きそば」や「フライドポテト」では“客単価”が低く、リピート客も少ないので、ビジネスが成り立ちません。

 スーパー側も、焼きそばやフライドポテトでは匂いも弱く、お客さんを店内へ引き込む“相乗効果”が期待できません。

  実際、私が経営していたスーパーの駐車場でも、長年女性が「焼き鳥屋」を営んでいました。彼女は70代半ばで引退するまで、独り身で2人の子どもを大学まで通わせたとのこと。

 お客様からも「スーパーの焼き鳥よりおいしい」と評判で、惣菜部もうかうかしていられない存在でした。いまさらながら頭が下がる思いです。 

香ばしい煙の向こうに見えるもの

 次にスーパーに立ち寄ったときは、店先に立つ「焼き鳥屋」さんにも、ちょっと目を向けてみてください。香ばしい煙の向こうには、額に汗して家計を支える母親の姿や、お客さんたちの思い出が垣間見えます。 
 
 そういえば、最近食べていなかったなぁ……と思ったあなた。ひさしぶりに買ってみませんか? 

 「おじさん、焼き鳥10本ちょうだい、塩とタレ5本ずつ!」 

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  • 小林久(元スーパーやまと社長)
  • 小林久(元スーパーやまと社長)

    1962年山梨県韮崎市生まれ、山梨県立韮崎高校、明治大学商学部卒。山梨県に最盛期16店舗、年商64億円を稼いでいた創業105年の老舗スーパー「やまと」の元3代目社長。先代からの赤字経営を引き継ぎ「破綻スーパー再生」を軸に短期間で業績を回復した。2014年頃から大手資本の進出により次第に経営が悪化、17年12月に倒産。自身も自己破産へ。自身の失敗から得た教訓を企業にアドバイスしている。著書『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)『続・こうして店は潰れた』(同文舘出版)。

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