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マスコミが伝えない「備蓄米フィーバー」陰の部分――スーパーの元店長が明かす本音

食品スーパーに関する疑問や消費者が知らない裏側を、創業105年にあたる2017年に倒産した老舗スーパー「やまと」の元3代目社長で『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)の著者・小林久氏に解説してもらいます。今回のテーマは「備蓄米をめぐる中小スーパーの本音」。

備蓄米フィーバーがもたらした「影」 中小スーパーの本音とは?の画像1
昨年7月の米売り場(写真:スーパーマーケットファン)

目次

小さなスーパーの存在を、忘れてはいないでしょうか? 
「備蓄米フィーバー」の始まり
 “蚊帳の外”に追いやられた中小スーパー
中小スーパーの“歯がゆさ”とは?
「備蓄米フィーバー」の陰で日々営業を続ける

小さなスーパーの存在を、忘れてはいないでしょうか? 

「おたくのスーパーには、あの安い備蓄米は入らないの?」 
 
 常連さんからそう聞かれるたび、「うちの規模のスーパーには入荷しないんですよ」と答えるのが、なんとも心苦しい。目の前で“備蓄米フィーバー”が起きているのに、中小スーパーは、ただ黙って見ているしかありません。 
 
 メディアでは連日、「備蓄米を求めて大行列!」「2,000円のお米に歓喜!」などとにぎやかに報じられています。でもその陰で、“蚊帳の外”に置かれた多くの小さなスーパーの存在を、忘れてはいないでしょうか? 
 
 振り返れば2024年、記録的な猛暑と台風の影響で米の作柄が悪化。さらにインバウンド需要の高まりも重なって、お米の値段がじわじわと上がり始めました。5キロ3,000円だったコシヒカリなどの「銘柄米」が4,000円を超えてついに5,000円台へ。

 こんな「令和の米騒動」がもう1年以上続いています。 

「備蓄米フィーバー」の始まり

 政府にとっても主食であるお米の価格高騰は大問題です。そこで非常時用に保管してある「政府備蓄米」を市場に放出することになったのですが、ここからが大混乱の始まりでした。 
 
 当初、備蓄米は2025年3月10~12日に「競争入札」で15万トンが取引され、大部分(93.7%)を「JA全農」が落札しました。そこからいくつかの「米卸売業者」を経て“精米~袋詰め”され、スーパーなど小売店に流通させる段取りでした。

 しかし、流通に目詰まりを起こし、備蓄米がスピーディに消費者の手に届きません。しかも入札額の高さから、価格も5キロで3,000~3,500円前後と、決して安価ではありませんでした。 
 
 イライラが募る国民の批判の声が高まる中、農林水産大臣が交代。今度は備蓄米の取引方法を「競争入札」から「随意契約(手を挙げれば誰でも買える)」に変更し、5月26日以降、スーパーやホームセンター、ドラッグストア、そして通販会社までもが、農協(JA)や前述の米卸売業者を省いて直接仕入れて販売できる流れを作りました。 
 
 すると状況が一変します。契約から1週間程度で大手スーパーに並び始め、価格も税込み2,000円前後で販売されることになりました。これが「備蓄米フィーバー」の始まりです。 

 “蚊帳の外”に追いやられた中小スーパー

マスコミが伝えない「備蓄米フィーバー」の“影の部分”とは? スーパーの元店長が解説の画像1
備蓄米の販売整理券の終了を知らせるポップ(写真:スーパーマーケットファン)

 メディアは連日、「やっと手に入れたぞ!」とゲットした備蓄米を誇らしく掲げるお客さんの姿や、「安くて助かる」「思ったよりおいしい」という喜びの声を伝えます。徹夜で並ぶ方もいます。

 育ち盛りの子どもがいる家庭や年金暮らしの高齢者世帯では、「1家族1袋限り」の制限があっても、2,000円の備蓄米は家計の「救世主」となりました。 
 
 一方、この「備蓄米フィーバー」では、決してマスコミが取り上げない「陰の部分」があります。 
 
 5月26日から始まった「随意契約」に参加するには、「年間1万トン以上の取扱量がある業者」という高いハードルが設けられてしまったのです。この条件があまりにも厳しくて、「大手コンビニ」でさえ最初は参加できませんでした(現在は可能になりました)。 
 
 つまり、「随意契約」に参加できるのは、あなたが知っている「有名大型スーパー」に限られ、地方に点在する「中小スーパー」は、「売りたくても仕入れることができない」という“蚊帳の外”に追いやられてしまいました。 
 
 もし中小スーパーなのに備蓄米を売っているとしたら、それは「〇〇チェーン」や「〇〇グループ」として“束になって”条件をクリアした大型店傘下の企業です。 
 
 SNS上では「もう備蓄米は普通に買える」などの声を聞く半面、「まだ備蓄米を見たこともない」など、地域によって大きな“格差”があります。どちらかといえば、都市部や大きな地方都市で、優先的に備蓄米が販売されているようにも感じます。 

中小スーパーの“歯がゆさ”とは?

 これまで主に地方や過疎地で地域の食生活を担ってきた「中小スーパー」は、大手スーパーが「備蓄米フィーバー」に沸く中、寂しい思いをしています。

 このような“小売りの腕の見せどころ”でもある非常事態に貢献できない“歯がゆさ”は、同じ立場にいた私には痛いほどわかります。 
 
 「自分たちだって安い備蓄米を地域に届けたい!」この思いは、これから解消されていくのでしょうか? しかしいくら「随意契約」で取引しても“精米~袋詰め”を自社でできない以上、これまで通り、いつもの米問屋にすがるしかありません。

 自分の店で安い備蓄米を販売して、お客さんが喜ぶ姿を見ることは期待できないのでしょうか……。 
 
 その頃にはこの「備蓄米フィーバー」は収束しているかもしれません。現在、中小スーパーには初期の「競争入札」で市場に出た値段の高い備蓄米(ブレンド米)や輸入米、そして高くて売れない「銘柄米」の在庫が山と積まれています。 
 
 あなたはもう、あの「備蓄米」を手に入れましたか? それとも、いまだに「幻の米」として見たこともないでしょうか? 

「あなたの街に必要な店」 として中小スーパーは日々営業を続ける

 JNNの世論調査によると「備蓄米を買いたい」と答えた人の割合は48%、そして実際に買った人は、わずか3%にとどまっているそうです。 
 
 確かに、すべての人がこの備蓄米を買いたいわけではないし、量を減らしてでも「銘柄米」にこだわりたい人もいるでしょう。こんなに価格が高くなれば、お米の代わりにパンやパスタ、うどんなどの麺類に乗り換えた人も多いはずです。あなたはどんな防衛策を取ったでしょうか? 
 
 中小スーパーは、安さも規模も大型店にはかないません。でも、「あなたの街に必要な店」として、毎日店を開け続けています。

 世の中の「備蓄米フィーバー」の陰で、歯を食いしばりながら日々営業を続ける中小スーパーの存在を、少しでも皆さんに知っていただけたら幸いです。 

スーパーマーケットファン世論調査
<備蓄米は購入しましたか?>

合計:24
実施期間:2025年7月10日~期限なし
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  • 小林久(元スーパーやまと社長)
  • 小林久(元スーパーやまと社長)

    1962年山梨県韮崎市生まれ、山梨県立韮崎高校、明治大学商学部卒。山梨県に最盛期16店舗、年商64億円を稼いでいた創業105年の老舗スーパー「やまと」の元3代目社長。先代からの赤字経営を引き継ぎ「破綻スーパー再生」を軸に短期間で業績を回復した。2014年頃から大手資本の進出により次第に経営が悪化、17年12月に倒産。自身も自己破産へ。自身の失敗から得た教訓を企業にアドバイスしている。著書『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)『続・こうして店は潰れた』(同文舘出版)。

    公式サイト

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