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団地一人暮らし、高齢男性が「脱水症」で倒れた! ベランダまで匍匐前進して……

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)。

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

団地一人暮らし、高齢男性が「脱水症」で倒れた! ベランダまで匍匐前進して……の画像1
(写真ACより)

目次

突然体に力が入らなくなり、救急車を呼んだが……
医師から告げられた「脱水症」
70歳手前に倒産、すべて失くした
「今度倒れて、助けを呼べなくても仕方ない」

突然体に力が入らなくなり、救急車を呼んだが

 押見征克さん(仮名・82)は健康には自信があり、高齢者向けのボランティア活動にも励んでいた。

 ところがある日、突然体に力が入らなくなり倒れてしまった。意識はあったので、数メートル先の携帯電話まで1時間以上かけて這っていき、救急車を呼ぶことができた。

 玄関のカギがかかっていたため、救急隊は隣の家からベランダ伝いに救出に来てくれた。ただ、ベランダに面した窓にもカギをかけていたのだ。万事休す……。

前編▶80代男性、団地一人暮らしで「突然、体だけが動かない」!

「禍福は糾える縄の如し、だね(苦笑)。これまた幸いなことに、私が倒れたのは居間で、ベランダに面した部屋だったんです。それで力を振り絞って、ベランダの窓まで匍匐前進しました」

 おそらく、押見さんが動けなければ、救急隊は消防車を呼び、窓ガラスを割って救出したのだろう。

 そうしなかったのは、押見さんの様子をベランダ越しに見ながら、「窓のカギを自力で開けられるだろう」と判断したからではないかと思われる。

 押見さんは匍匐前進で何とか窓ガラスまでたどり着き、カギを開けることができた。

 そして、無事――いや、無事じゃないから救急車を呼んだのだが、ともかく病院に運んでもらうことができた。

医師から告げられた「脱水症」

 診察した医師からは「脱水症でしょう」と告げられた。高齢者が陥りやすい症状だ。

「風邪気味だったので、悪化したのかもしれません。それにしても水分不足だけで、あれほど大変な思いをするとは思わなかったよ」

 結局、1週間入院した。脱水と軽く見てはならないと思わせられる入院期間の長さだ。

 そして、今度こそ無事退院。また一人暮らしに戻った。脱水の怖さが身に沁みたという押見さん。それからは経口補水液を常備するようになったと笑う。

「いざというときのために、『携帯電話を首にでもかけておけば?』と子どもには言われましたが、ずっとぶら下げておくわけにもいかないしね」

 それでも、一人暮らしをやめたいとは思わない。不安がないと言えばウソになるが、一人暮らしはまだ続けるつもりだ。

「今回は意識もしっかりしていたし、会話もできたからよかったものの、もし脳卒中や心筋梗塞だったらあのまま死んでいただろうとは思います。でも、それはそれで仕方ないのかな。それも運だと思ってあきらめるよ」

70歳手前に倒産、すべて失くした

 そう思えるのは、これまでにもさまざまな出来事があり、その時々で大変な思いはしたが、後から考えるとそう大したことではないと思えるからだ。

 妻を亡くしたとき、子どもはまだ中学生と小学生だった。男手ひとつで育てるのに苦労しなかったはずはない。

「近くに親もいたからね。周りの人からは『よく一人で育てましたね』『立派だ』なんて言われるけど、別に自分が育てたわけじゃない。勝手に大きくなったんですよ」

 押見さんの言葉はどこまでもカラっとしていて快い。自営業だったから、ある程度融通も利いたと謙遜するが、その商売もリーマンショックのあおりで倒産。70歳を手前にして、すべて失くしたという。

「負け惜しみじゃなくて、それでスッキリしたんですよ。今は都営住宅暮らしだけど、不動産なんてないほうがいい。子どもに残せるものはないけど、相続で争うこともないだろうしね」

 “いろいろあった”からこそ達した境地なのだろう。そしてすべて失くして、やることもなくなったのかと思えば、とんでもない。毎日忙しいのだという。

「今度倒れて、助けを呼べなくても仕方ない」

「年寄りに弁当を届けるボランティア活動もあるし、同年代のグループで読書会もしている。映画を見たり、浪曲を聞いたりするのも好きだから、都心まで出かけることも多いね。今日は何をしようかと考えるだけでも楽しいよ」

 義務でしないといけないことはもう何もない。やっていることはすべて自分が好きでやっていることばかりだから、ストレスもない。

 そう言い切れる82歳。なんだかとてもカッコいい。

 押見さんは「今度倒れて、助けを呼べなくても仕方ない」と潔いが、もし連絡が取れなくなればボランティアや勉強会の仲間が心配して駆けつけてくれるだろう。

 誰にも発見されずに数カ月……ということにはならないはずだ。ボランティア活動は自らのセーフティーネットにもなっている。

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  • 坂口鈴香(ライター)
  • 坂口鈴香(ライター)

    終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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