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「実家を引き払って、東京に来る気はある?」父親の返事に拍子抜けした

(写真AC)。

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)


 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

目次

「東京に出てくる気はあるか」父親に確かめたい
父親の返事に拍子抜けした
同居するスペースはない。新たな苦悩

「東京に出てくる気はあるか」父親に確かめたい

 園田豪さん(仮名・53)の妻は、10年前に脳幹梗塞を発症し後遺症が残った。それまでやったことのなかった家事を一手に引き受けている。気になっているのは、実家で一人暮らしをする80代の父親のことだ。いずれは実家に戻って同居しようと考えていたのだが……。

(前編)
「いずれは親と同居するつもりだった」……が、そうはいかない理由

 妻は再発の心配もあったが、幸い、二度目の梗塞を起こすこともなく10年が過ぎた。

 同時に、父親も80歳を過ぎた。妻の病気で、今後父親をどうするか考えるのは先延ばしにしていたが、これ以上先延ばしにするわけにはいかないと、この年末年始に園田さんは父親と向き合うことになった。

「頭の中ではずっとああでもない、こうでもないと考えていました。いくつもの方法を考えては、それを実行する障壁が出て来る。それでも、まずは父の考えを聞いておいたほうがいいだろうという結論に達したんです」

 園田さんが父親に確かめたかったこと――。それは、「東京に出てくる気はあるか」ということだった。

 園田さんの若いころからの目算、「いずれはふるさとに帰って、実家で親と同居するか、親の近くに住んで、老後の面倒を見る」は、妻の病気とそれに続く後遺症で難しくなった。

「絶対に無理ということはないでしょう。実家の近隣市には会社の支社もあるので、転勤することはできます。それでも今の業務は出張が多く、留守がちになるなか、後遺症を抱え、定期的な通院も必要な妻が、都内よりもずっと不便で、知り合いもいない町で暮らしていけるのか。それを考えると、ふるさとに帰るのはやはり非現実的だという結論に達したのです」

 となると、父親にはもうしばらく一人で暮らしてもらい、介護が必要になれば妹と協力しながら、自分が遠距離介護をするという選択肢が出てきた。

「これも非現実的だと思います。妻を残して頻繁に実家に通うことはできないし、結局妹に負担をかけることになるでしょう」

父親の返事に拍子抜けした

 残る選択肢は、父親を東京に呼び寄せること。それにはまず父親の意向を確かめておく必要がある。そういうわけで、この正月。園田さんは改めて父親に聞いてみた。

「親父は、ここを引き払って、東京に出て来る気はある?」

 園田さんは、おそらく父親は「実家を離れたくない」と言うだろうと覚悟していた。縁もゆかりもない都会に、80歳を過ぎたとはいえまだ元気な父親が出てくるとは思えなかった。

 ところが、意外なことに父親の返事は「いいよ」だった。

 これまで父親の気持ちを確かめるのが怖くて逡巡していた園田さんだ。父親にかわいそうな提案をすることになるのではないかと思い、罪悪感もあったという。それが、すんなり「東京に来てもいい」と言うとは。

 うれしいより、「なぜ?」のほうが大きかった。

「実は、私にとってはふるさとでも、父親にとってはそうではありませんでした。父親は四国出身で、仕事の関係で中国地方に住むことになった。なので、私がふるさとを思うほどの愛着は父にはなかったようなんです。妻の体のことも理解してくれていたのでしょう。父は、自分の老後のことで、これ以上私に負担をかけたくなかったのだと思います」

同居するスペースはない。新たな苦悩

 というわけで、今後の方向性はあっさりと決まった。まさに、案ずるより産むがやすしだ。園田さんは安堵する反面、新たな苦悩も生まれたのを感じている。

「父を東京に呼ぶとして、どこでどう暮らせばいいか、ということです。私の住むマンションは3LDKですが、まだ子どもたちもいるので同居するスペースはありません。同居できる戸建てを買っても、体の不自由な妻はバリアの多い戸建てでは生活できないでしょう。そもそも戸建てどころか、今より広いマンションを買おうにも、今のマンション価格の高騰を考えるととても手が出ません。実家の家と土地を売っても、大した額にはならないでしょう。そもそも売れるかも怪しい。では、父だけ賃貸アパートに住んでもらうか、というとそれも父親にわびしい思いをさせるのではないかと思います。住環境も、今と比べると格段に悪くなるでしょうし」

 こうして園田さんは新たに直面する問題に、再び「ああでもない、こうでもない」と思い悩んでいるのだ。

 「正月以来、堂々巡り。頭が痛いです」と苦笑する。そうこうするうちに、また今年も恐ろしいスピードで過ぎていくのだ。

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  • 坂口鈴香(ライター)
  • 坂口鈴香(ライター)

    終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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