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「味付け肉」は売れ残った肉? スーパーの元店長が教える「余った肉」の裏側

食品スーパーに関する疑問や消費者が知らない裏側を、創業105年にあたる2017年に倒産した老舗スーパー「やまと」の元3代目社長で『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)の著者・小林久氏に解説してもらいます。今回のテーマは「味付け肉の裏側」。

「味付け肉」は売れ残った肉? スーパーの元店長が教える「余った肉」の裏側の画像1
(写真ACより)

目次

スーパーの味付け肉は賞味期限ギリギリの肉?
味付け肉には3種類ある 
商品を売り切るための「値引き」と「再加工」
売れ残った肉を惣菜に再加工? 
スーパーの元社長が即買いする、“お宝”味付け肉は?
味付け肉は“ごまかす”のではなく、売れる形に整えている

スーパーの味付け肉は賞味期限ギリギリの肉?

 スーパーの精肉コーナーに行くと、タレやスパイスで下味をつけた「味付け肉」が豊富に並んでいます。忙しい人にとっては、手軽でおいしい頼れる味方ですね。 
  
 その一方で、こう思ったことはありませんか? 

「どうせ賞味期限ギリギリの鮮度が落ちた肉を、タレでごまかしてるんじゃないの?」 

 きっとほかの人もそう思っているはず。でも、店員さんに聞いたところで「そんなことはありません」と言われるのは目に見えていますよね……。 
 
 そこで今回は、スーパーの「肉・魚・野菜」など生鮮食品の“再加工”について、現場の視点で解説します。 

味付け肉には3種類ある 


  まず、味付け肉にはいくつかの種類があります。 

① メーカー製のパック入り味付け肉 
 
 すでに真空パックにされた状態で納品され、そのまま売場に並べるものです。または、冷凍の加工肉を仕入れて店内で小分けし、専用のラベルを貼って販売することもあります。

 どんな品質の肉が使われているかは、正直スーパー側ではわかりません。味は万人受けするものでリピーターが多く、店の利益も安定しています。 
 
② 店内で作る、定番の味付け肉 
 
 「タレ付き焼肉」「ペッパーステーキ」「塩だれ豚肉ソテー」といった定番の商品を見かけませんか? 再加工かどうかは見た目では判断しにくいですが、商品名に「◯◯◯特選プルコギ」など“店名”がついていれば、自社で製造されたオリジナル商品と考えられます。

 店内製造品は鮮度が落ちた肉を使いません。しかし、“当たりはずれ”が多いのもこれらの商品の特徴です。 
 
③値段が安い店内製造の味付け肉 
 
 冷凍牛肉スライスにタレをかけたものや、パン粉をまぶした「揚げるだけトンカツ」など、店内製造で“やっつけ感”のある商品です。ただ、値段が安いのでつい手が伸びますよね。それが本当に再加工品かどうかは“見た目”で判断するしかありません。しかし、意外に「当たり」が多いのがこの商品です。 
 
 あなたが気になるのは、おそらく②と③の味付け肉ではないでしょうか? 

商品を売り切るための「値引き」と「再加工」

 スーパーでは、食品ロスをなくすためにも、すべての商品が売り切れることが理想ですが、現実には多くの商品が売れ残ります。そのため、期限のある生鮮品や日配品(豆腐や牛乳など)は「値引きシール」の力を借りて売り切る努力をします。 
 
 ただし「値引き」だけでは単純に利益を削ることになります。そこで生鮮部門では、“再加工”して商品価値を高めて売る工夫をします。再加工には人手(コスト)がかかりますが、値引きせずに済むことで、価格を維持しつつ利益確保ができます。 
 
 こうした再加工は、適切なルールのもとで行われていれば決して“悪いこと”ではありません。 
 
 法律的にも、精肉部で売れ残った生肉を「消費期限内」に味付けして販売することは、適切な衛生管理と正しい期限表示が行われていれば違法ではありません。また、「再加工品」であることを表示する義務もないんです(ただし、消費期限を過ぎた肉を加工・販売することは違法です:食品衛生法第11条)。

 なお、味付け肉に加工する以外にも、余った肉を「挽き肉」に混ぜたり、「生ハンバーグ」に再加工することもあります。 

売れ残った肉を惣菜に再加工? 

「味付け肉」は売れ残った肉? スーパーの元店長が教える「余った肉」の裏側の画像2
(写真ACより)

 ひとつ気になるのが、「精肉部で売れ残った肉を惣菜部で再加工して売ることはあるのか?」という点ではありませんか? 

 確かに、精肉・鮮魚・野菜などの売れ残りを惣菜部が再利用すれば、廃棄ロスも減って利益につながりそうですよね。これは誰もが思いつくアイデアです。 
 
 しかし、大手スーパーチェーンでは基本的に部門間の「使い回し」はしません。スーパーの現場は、部門ごとの厳しい“縦割り”が基本で、再加工は部門の中で完結します。

 精肉部では生肉を味付け肉に、惣菜部では、その日に仕入れた一番新鮮な肉でトンカツや唐揚げを作り、余った場合は「カツ丼」「唐揚げ丼」に再加工して売り切ります。魚や野菜も同様で、残った魚を惣菜部で煮付けたり、残り物の野菜を使って天ぷらを揚げることはしません。 
 
 ただし、個人経営の中小スーパーや街の精肉店などでは、柔軟に再加工されていることがあります。もちろん、保健所の許可を得て設備も整えたうえで、法律に違反しない範囲で行われています。私も街の精肉店の「コロッケ」や鮮魚店の「アジフライ」が大好きです。 

スーパーの元社長が即買いする、“お宝”味付け肉は?

 では、スーパーの元社長である私は味付け肉を買うのか、あるいは買わないのか? 
 
 答えは簡単です。「買わない手はありません! ただし、しっかり選んで」が基本です。 再加工品は、「値引きシール」に匹敵する“お買い得品”で、上手に選べば、むしろお薦め商品なんです。 
 
 私なら、味付け肉の中でも価格が高めのものを選びます。とくにそれが値引きされていたら即買いです。

 精肉担当者も、「ただ値引きして売るより、加工して味のわかるお客様に食べてほしい」と思っています。もしそれでも売れ残れば、最終的には廃棄せざるを得ません。ですから、加工品の値引き率は自然と高くなります。スパイスやタレがかかった「国産牛」のステーキ用や焼肉用があれば、まさに“お宝発見”です。 
 
 また、メーカー品の中でも専門店の自家製ダレを使った「ホルモン」や、精肉店が本気で作った「焼肉用カルビ」などは価格以上の価値があります。こういった丁寧に作られた商品なら、「肉が硬い」「脂が多い」などと後悔することも少ないでしょう。 

味付け肉は“タレでごまかす”のではなく、売れる形に整えている


  現場の立場から言わせていただくと、味付け肉は“売れ残りをタレでごまかす”のではなく、廃棄を防ぐために、「売れる形に整えている」のです。 
 
 日本のスーパーでは商品管理が非常に厳しく、再加工品でも品質に問題はありません。 献立に迷ったときは、売り場で出会った味付け肉を手に取ってみてはいかがでしょうか。 忙しい毎日、あなたの強い“味方”として、上手に活用してください。 

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  • 小林久(元スーパーやまと社長)
  • 小林久(元スーパーやまと社長)

    1962年山梨県韮崎市生まれ、山梨県立韮崎高校、明治大学商学部卒。山梨県に最盛期16店舗、年商64億円を稼いでいた創業105年の老舗スーパー「やまと」の元3代目社長。先代からの赤字経営を引き継ぎ「破綻スーパー再生」を軸に短期間で業績を回復した。2014年頃から大手資本の進出により次第に経営が悪化、17年12月に倒産。自身も自己破産へ。自身の失敗から得た教訓を企業にアドバイスしている。著書『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)『続・こうして店は潰れた』(同文舘出版)。

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