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亡父が大切にしていた遺品、査定額に虚脱感……「まるで空き巣のようなやり方」とは? 

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

亡父が大切にしていた遺品、査定を頼んだら……「まるで空き巣」 の画像1
(写真AC)

目次

二度目の「親の家の片付け」
乱暴に引き出しの中をかき回したあげく…… 
勝手にタンスを開けられて。まるで空き巣 
思わぬ収入に笑いが止まらない。「実は結婚指輪も」

二度目の「親の家の片付け」

 親を呼び寄せ、二世帯住宅で暮らしていた佐原美佳さん(仮名・60)は、両親が亡くなり、二度目の「親の家の片付け」に直面している。

 父親が大切にしていた碁盤と碁石、古い机は価値がありそうだったので、出張査定を頼むことにした。1社目、査定にやって来た若い女性は、碁盤と碁石の査定を待つ間、アクセサリー類を出させ、「成績に響くからこれだけは買い取らせてほしい」とそれだけを買い取って行った。

 肝心の碁盤と碁石は8千円だというので、2社目に期待をかけていた。 
 
前回はこちら

乱暴に引き出しの中をかき回したあげく…… 

 査定日は奇しくも父親の命日。やって来たのは、50歳前後と思われる男性だった。「やっぱり査定はこれくらいの男性のほうが信頼できる」と喜んだ佐原さんだったが―― 
 
「若い女性社員のほうがずっとマシでした」 
 
 佐原さんは、男性社員に父親がいかに碁盤と碁石を大切にしていたかを語った。男性社員は話に共感するようにうなずきながら、机と碁盤、碁石を一瞥した。

 1社目の女性のように、写真を撮ることも、碁盤や碁石の厚みを測ることもせず、「碁盤は需要がないんですよ」と一言。「碁盤もハマグリだけど、そんなに質の良いものじゃない」と言う。そして「公民館とかに寄付したほうが、喜んで使ってもらえるんじゃないですか」と重ねた。 
 
「買い取らないことはないけれど、碁石と合わせても4千円と言うんです。父の命日に査定してもらうことに縁を感じた自分がバカでしたね」 
 
 そして、机に至っては、もっとひどかった。 
 
「机自体にはまったく興味がなさそうでした。自分でネットに写真を挙げて買い手を探したらどうかと言いながら、机の引き出しを乱暴に開けては、中に入っているペンなどをガサガサ漁り、万年筆を数本抜き出しました」

勝手にタンスを開けられて「まるで空き巣」 

 さらに、勝手に別の部屋にも入り込み、タンスや押し入れをチェックし出したのだ。 
 
 査定は2社目だと正直に言っておいたのがまだよかった。1社目の業者が漁り尽くして、もうそんなに価値のあるものは残っていないと思ったのだろう。そうでなければすべての引き出しや戸棚を開けて、中を総ざらいしたに違いない。 
 
「家を解体するような場面で買い取りに行くことが多いから、それが当たり前になっているのかもしれませんが、まるで空き巣のようなやり方だと思いました。両親や私の心の中に土足で踏み込まれているようで不愉快極まりありませんでした」 
 
 男性社員の収穫は、机から抜き出した数本の万年筆のみ。それも値が付けられるのはたった1本。1,000円だと言う。 
 
「それで気が済むならどうぞお持ち帰りください、そんなものしかなくてごめんなさいっていうような卑屈な気持ちでした。今度は父の価値が碁盤と合わせても5千円。母のアクセサリーよりももっと貶められたようで、虚脱感に襲われました」 
 
 残されたのは千円札一枚と、引き出しがすべて開けられて散らかった机。買い取り査定なんて頼まなければよかった。父と母の人生を査定、それも格安に査定されたようで、何とも後味の悪いものになった。 
 
 碁盤と碁石は査定の値段を比較してどちらかに決めようと思っていたのものの、また1社目の女性社員に「碁盤をその値段で買ってください」と言うのも足元を見られるようで、連絡する気にもならないでいる。 

思わぬ収入に笑いが止まらない。「実は結婚指輪も」 

 一方で、こんな話もある。藤江千恵さん(仮名・58)の両親は80代後半。持病を抱えながらも、何とか二人でがんばってくれている。兄家族が近くに住んでいるが、両親との関係はそう良好ではないため、藤江さんと姉が両親の様子を見にたびたび帰っているという。 
 
「母は私たちに『残せる財産はないわよ』と言いながらも、自分が死んだあとに兄夫婦が独り占めすることのないようにと、少しばかりの貴金属類を姉と私に譲ってくれています。先日は、ネックレスと指輪を渡されて、『今、金が高騰しているらしいから売ったらいいよ』と言うんです」 
 
 せっかく母がそう言ってくれるならと買い取りショップに持ち込んだところ、合計で2万円ほどになったと相好を崩した。母親が自ら「売っていい」と言ってくれたせいか、藤江さんからは佐原さんのような屈託はまったく感じられない。 
 
 そして、藤江さんはこう付け加えた。 
 
「実は一緒に、自分たちの結婚指輪も持って行ったんです。といっても、私の指輪はとっくに失くしていて、夫のものだけなのですが。すると、母からもらったものよりも高く売れました」 
 
 思わぬ収入に笑いが止まらないようだ。これくらい割り切ったほうが、人生ラクに生きられるのかもしれない。 

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  • 坂口鈴香(ライター)
  • 坂口鈴香(ライター)

    終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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