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スーパー化する「ドラッグストア」が最大の刺客? 「ロピア」「オーケー」に並ぶ勢力に!

昨年閉店したイトーヨーカドー柏店(写真:スーパーマーケットファン)

食品スーパーに関する疑問や消費者が知らない裏側を、創業105年にあたる2017年に倒産した老舗スーパー「やまと」の元3代目社長で『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)の著者・小林久氏に解説してもらいます。今回のテーマは「西友、ヨーカドー凋落後、次に訪れるのは?」。

目次

「西友」「イトーヨーカドー」に売却報道
イオンモール、Amazonなどの登場
ヨーカドー、西友よりショッピングモールの時代へ
ディスカウントドラッグストアこそが刺客?

「西友」「イトーヨーカドー」に売却報道

 かつてスーパー業界を牽引した「西友」や「イトーヨーカドー」の業績低迷が報じられています。

 西友は2021年に当時の親会社・ウォルマートから投資ファンドと楽天に売却されていますが、今回はそのファンドが売却を検討。ヨーカドーもセブン&アイ・ホールディングスから切り離され、新たに「ヨーク・ホールディングス」となり、米投資ファンドに売却の可能性が強まっています。時代とともに主役が交代してきたスーパー業界、これまでの流れと今後の展開を予想してみましょう。

 スーパーマーケットを筆頭にした日本の小売業界は、昭和30年代の高度経済成長期の「百貨店全盛時代」を経て、昭和50年頃から「総合スーパー(GMS)時代」に突入しました。西友、ダイエー、ヨーカドーといったGMS(General Merchandise Store)は、衣食住を1カ所で揃えられる利便性(ワンストップショッピング)を武器に、一気に全国展開しました。

 まだイオンが「ジャスコ」と名乗っていた時代です。「サティ(ニチイ)」や「ヤオハン」などの店名を覚えている方も多いことでしょう。私の実家のスーパーも、ヨーカドーが近所に出店した影響で売り上げが半減し、家族で倒産を覚悟したことを思い出します。

イオンモール、Amazonなどの登場

 しかし、バブル崩壊後の1990年代以降、ディスカウントストアやドラッグストアの台頭、そして今や生活インフラともいえるコンビニエンスストアの進化が加速しました。

 2000年代に入るとアメリカからの外圧で「規制緩和」が進み、それまで地域商業を保護して大型店の出店を制限してきた「大店法(大規模小売店舗立地法)」が撤廃されます。それ以降、大型店は交通渋滞や環境・騒音問題に配慮することを条件に、どこでも自由に出店できるようになりました。要するに、国が大型ショッピングモール建設に「お墨付き」を与えたわけです。

 その結果、郊外の広い敷地に魅力的なテナント群やフードコート、映画館やアミューズメント施設を複合させた巨大商業施設が建ち始めました。その代表がみんな大好き「イオンモール」です。さらに、Amazonや楽天などのオンラインショッピングが私たちの生活を一変させました。

 実店舗と仮想店舗の「地上戦+空中戦」を同時に挑まれたGMSは、その規模の大きさから、ライバル企業の台頭に即座に対応することができませんでした。ダイエーは2000年代に経営難に陥り、15年にイオン傘下となりました。サティやヤオハンも破綻し、現在は西友やヨーカドーもかつての王者の座を明け渡しつつあります。

ヨーカドー、西友よりショッピングモールの時代へ

 消費者は、衣料品を買うならユニクロやしまむら、家電なら専門量販店、雑貨なら100円ショップやホームセンター、ドラッグストアへ向かいます。車で動く家族は、駅前の多層階の古びた総合スーパーより、郊外のキラキラしたショッピングモールへ出かけることが休日の楽しみにもなりました。

 「盛者必衰」とはいうものの、思い出のある店がなくなるのは寂しいものです。ヨーカドー閉店日の夜、別れを惜しむ常連客が店頭に詰めかけ、「今までありがとう!」と涙ぐむ姿は、まるでロックバンドの解散コンサートのようだと表現されます。

 私は小売業の経営者だったため、「なくなって悲しいなら、もっと買い物に行ってあげればよかったのに」と思うことがあります。しかし「お客様は絶対」です。どこで何を買うか、あるいは買わないかは自由です。店側はお客様に選ばれるよう努力するしかありません。それでもダメなら市場から退場するのがビジネスのルールです。

ディスカウントドラッグストアこそが刺客?

コスモスの看板(写真:スーパーマーケットファン)

 では今後、「総合スーパー」に代わって、どんな店が主役になるのでしょうか?

 まずは、①「食品強化型スーパー」です。

 「ヤオコー」「サミット」など、生鮮食品を強化した食品スーパーが注目されています。このほかにも各地に食品強化型スーパーはありますが(バロー、ラルズ、万代etc.)、なにより衣料品など食品以外のモノを扱わず、ショッピングモールとして展開していない点が特徴です。

 品質・鮮度・独自性を武器に、地域密着型の経営を展開し、必要以上に規模を広げない考え方も、過去の教訓を生かしています。その店づくりや商品力は、プロが見てもうなるほどのレベルの高さです。

 次に、②「ディスカウントスーパー」です。

 物価上昇を背景に、価格訴求型のスーパーが人気です。「オーケー」は「高品質・Everyday Low Price」をモットーに都市部の主婦層に人気であり、今後は関西への進出を足がかりに、拡大を進めるでしょう。「業務スーパー」「ドン・キホーテ」「トライアル」の活況もみなさんご承知の通りです。

 特に「ロピア」は「①食品強化+②ディスカウント+コストコの楽しさ」を融合させた新たな業態です。一般家庭が使える範囲のジャンボパックを扱い、発祥の精肉を強みとし、「映える」総菜や現金オンリーでの価格訴求を武器に急成長しています。ヨーカドー跡地への出店も増え、次の主役候補筆頭といえるでしょう。

 そして最後は、③「ディスカウントドラッグストア」です。

 「ドラッグストアコスモス」や「クスリのアオキ」など、食品販売を強化したドラッグストアは、スーパーにとってこれが最大の脅威になりつつあります。クスリのアオキは全国の食品スーパーを買収して、ほかのドラッグストアが苦手な「生鮮食品」の強化で差別化を図る戦略です。こちらもロピアと同じく、今がチャンスと捉えているのがわかります。

 「ロピア」と「オーケー」の勢いが際立つ中、「ドン・キホーテ」や「業務スーパー」が拡大を続けていく。そしてその行く手を阻む異業種の刺客「ディスカウントドラッグストア」との覇権争い……さて、私の予想は当たるでしょうか?

 スーパー業界は常に変化し続けますが、消費者のニーズを的確に捉えた業態が生き残るのは、時代が変わっても同じです。しかし「盛者必衰」の教訓を忘れてはなりません。オーケーやロピアが今後もその地位を保ち続ける保証はありません。技術の進化や消費者の価値観の変化により、また新たな競合が登場する可能性は十分あります。

 重要なのは、時代に合わせた柔軟な適応能力と、「消費者ファースト」の姿勢です。私自身、スーパー経営の経験から、成長や拡大を優先するばかりに、大切なことを見失ってはいけないと痛感しています。

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  • 小林久(元スーパーやまと社長)
  • 小林久(元スーパーやまと社長)

    1962年山梨県韮崎市生まれ、山梨県立韮崎高校、明治大学商学部卒。山梨県に最盛期16店舗、年商64億円を稼いでいた創業105年の老舗スーパー「やまと」の元3代目社長。先代からの赤字経営を引き継ぎ「破綻スーパー再生」を軸に短期間で業績を回復した。2014年頃から大手資本の進出により次第に経営が悪化、17年12月に倒産。自身も自己破産へ。自身の失敗から得た教訓を企業にアドバイスしている。著書『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)『続・こうして店は潰れた』(同文舘出版)。

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