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キャベツ「4分の1」が198円……野菜の高騰時、スーパーの裏側では? 元店長が解説

写真AC

食品スーパーに関する疑問や消費者が知らない裏側を、創業105年にあたる2017年に倒産した老舗スーパー「やまと」の元3代目社長で『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)の著者・小林久氏に解説してもらいます。今回のテーマは「野菜が高騰した時、スーパーの裏側では何が起こる?」。

目次

安く仕入れた野菜も高く売ることも?
キャベツ「4分の1」が198円になる理由
「キャベツ1玉198円」こそ「三方良し」
野菜が高い時ばかり「直売所」や「道の駅」へ殺到
上がった相場は必ず下がります

安く仕入れた野菜も高く売ることも?

 毎日の食生活に欠かせない野菜。今年はお正月明けから価格が異常に高騰し、スーパーの野菜売り場で1個1,000円を超えるキャベツや、半分で500円以上する白菜を見て驚いた方も多いでしょう。野菜は日本列島の気温差を利用して「リレー出荷」されていますが、台風や水不足、猛暑などが原因で品不足となり、価格が高騰することがあります。

 今回は、元ローカルスーパー社長の私が「野菜が高騰した時の舞台裏」を解説します。

 野菜の価格は生産農家が自由に決めているわけではなく、仲卸業者やスーパーのバイヤーが青果市場で競り落とす価格によって日々変動します。出荷量が少なければ需要と供給のバランスが崩れ、一気に価格が高騰。バイヤーから各店舗の青果担当者へ「すぐに値段を上げろ!」と指示が飛びます。

 前日に安く仕入れた野菜も仕入れ原価に関係なく、その日の「相場」に合わせて価格が変動します。このように相場に左右される野菜は、価格が高騰しても農家が必ずしも儲かるわけではありません。

キャベツ「4分の1」が198円になる理由

 多少の値上がりなら2週間もたてばほかの産地から野菜が届きますが、今年のように暴騰すると、メディアも一斉に「キャベツが高い!」とあおります。その結果、少しでも安くキャベツを買える店を探して消費者もヒートアップ。普段は気にしないキャベツでも、こうなるとじっとしていられないのが消費者心理というものです。

 野菜の高騰は事前に予想できないことも多く、すでにチラシに「目玉商品」として掲載してしまったスーパーは大損害を被ることもあります。しかし、特売目当てのお客さんは見逃しません。当日急に「お一人様1点限り」や「先着300個限定」と制限しても納得してもらえず、売り場は戦場と化すことも(笑)。

 スーパーの野菜は通常「98円」、高くても「198円」までの価格帯で販売されることが多いことにお気づきでしょうか? 肉や魚と違い、野菜は副菜(付け合わせ)のイメージが強く、200円を超えると急激に売れ行きが落ちます。

 そのためキャベツや白菜が高騰した際は、少しでも販売価格を抑えるため「半分」や「4分の1」にカットして販売します。キャベツ「4分の1」が198円……これ以上の値付けは現実的に難しいのです。結果として、スーパーや仲卸業者は利益を削ってでもお客さんに届ける努力をします。

「キャベツ1玉198円」こそ「三方良し」

 「野菜の高騰」は、

・生産者にとっては収穫量減少による収入減

・スーパーでは売れ残りによるロス増加

・消費者は肉より高いキャベツを敬遠 

と、誰ひとり得をしない状況を生み出します。「キャベツ1玉198円」――見慣れたこの価格こそ、農家・スーパー・消費者にとって「三方良し」なのです。

 これほど野菜が高いと、競合店より少しでも安く売ることができれば、店の評判は一気に上がります。そのためスーパーは人脈や情報力を駆使して安い野菜を集めます。こんな時は、大手チェーン店に比べて小回りの利くローカルスーパーや個人スーパーの腕の見せどころです。

 よくテレビで取り上げられる小さなスーパーを見ればわかります。店主の顔は「赤字覚悟で販売しています!」と勝ち誇ったような満面の笑み。赤字を覚悟するだけで実際、赤字にはなりません。仕入れ先にお願いして、限定数量だけ安く仕入れたというのが「種明かし」です。しかし、それも立派な企業努力といえるでしょう。

1年中「1袋38円」のもやしにこそ感謝を

 個人的には「キャベツが高い時は、価格がいつも変わらない『カット野菜』や『刻みキャベツ』を買えばいい」と考えてきました。キュウリや大根、葉物野菜が高い時も価格が安定している「漬物」や「冷凍野菜」を代替品として利用してきました。

 内心は「キャベツがこんなに高いのに、刻みキャベツの値段がこのままじゃ、加工業者は厳しいな……」と思っていましたが、さすがに今年の高騰で、中身を減らして価格を維持する「実質値上げ」に踏み切ったそうです。なんでも安いことはありがたいですが、誰かの犠牲や負担の上に成り立つ「お得」は続きません。私たちも、その点を理解する消費者マインドを持ちたいところです。

 外食産業でも「キャベツ食べ放題」のトンカツ店や、「サラダバー」が売りのレストランなどは大変でしょう。そして野菜高騰の時、いつも引き合いに出される「もやしを食ってしのげ!」という風潮も業者に過剰な負担を強いることにつながります。1年中「1袋38円」で、提供してくれる「もやし業者」にこそ感謝を忘れてはなりません。

野菜が高い時ばかり「直売所」や「道の駅」へ殺到

 生産農家にしてみれば、そもそも野菜の価格は安すぎると感じていることでしょう。こうして野菜が高い時ばかり注目されますが、逆に豊作の時は相場の暴落を防ぐため、野菜を「廃棄」するニュースが報じられます。

 それを見た消費者は「捨てるくらいなら安く売ってほしい」「捨てるなんてもったいない」と声を上げます。しかし収穫や出荷の手間を考えれば、赤字を避けるための苦渋の決断であることも理解できます。

 なにより自然で育つ野菜に対して、サイズがそろったキズひとつない見栄えのいいものを求める風潮も見直す必要があります。野菜が高い時ばかり「直売所」や「道の駅」へ殺到するのではなく、日頃から生産者や流通業者の努力に思いをはせ、「適正価格」で購入する習慣を持ちたいものです。

価格の高騰に一喜一憂しない

 野菜の高騰は、今後も毎年のように発生します。しかし、上がった相場は必ず下がります。

 もやしやカイワレ大根、ハウス栽培のトマトやリーフレタス、室(むろ)で栽培するきのこ類など、価格が安定している野菜もたくさんあります。価格の安い時に冷凍保存できる野菜を仕込んでおくのもいいアイデアです。

 価格の高騰に一喜一憂せず、手に入る野菜を上手に無駄なく活用しながら、安くておいしい「旬」の時季を楽しみに待ちましょう。

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  • 小林久(元スーパーやまと社長)
  • 小林久(元スーパーやまと社長)

    1962年山梨県韮崎市生まれ、山梨県立韮崎高校、明治大学商学部卒。山梨県に最盛期16店舗、年商64億円を稼いでいた創業105年の老舗スーパー「やまと」の元3代目社長。先代からの赤字経営を引き継ぎ「破綻スーパー再生」を軸に短期間で業績を回復した。2014年頃から大手資本の進出により次第に経営が悪化、17年12月に倒産。自身も自己破産へ。自身の失敗から得た教訓を企業にアドバイスしている。著書『こうして店は潰れた~地域土着スーパー「やまと」の教訓~』(商業界)『続・こうして店は潰れた』(同文舘出版)。

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